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【小説】「公衆便所男 最終回」

 12月某日―
 私はある酒の席に座っていた。私の送別会である。

 私は「私」を、なんとか土肥金山に導くことに成功した。「私」は大垣の面前でメルトし、次の瞬間大声で叫んだかと思うと閃光に包まれ、その光の中に消えていった。私は大垣に駆け寄り、「何だ?一体何なんだよコレは?え?川上説明しろおお!!!」とわめく大垣に平謝りし、なんとかその場を取り繕った。
 今、私がこうして存在していると言うことは、11月4日にタイムトリップした「私」も、無事【私】を伊豆へと導くことに成功したということだろう。実にややこしい話だが、ともかく私はこうして無事、酒を呑んでいる。

 私はこれからどこへ向かうのだろう?あては全く無い。土肥金山から帰った私は、会社に辞表を提出した。私の上司にあたる男は「そうですか、そうですか、まあ色々と事情もあるんでしょうが、あえて理由は聞かないことにしておきましょう。貴方のような優秀な人材に辞職されることは、当社としても非常に手痛い話ではありますが、我々はなんとかやっていきますので川上さんもお元気で。」という有難いお言葉を受け取った。私はとくにこれといった感傷も無く、残った仕事の引継ぎ作業に取り掛かった。

 数日後、会社近くの居酒屋で私の送別会が行われることになった。宴会好きの社員が企画した、送別会とは名ばかりの席だ。それが今である。宴の初っ端に私は、お別れのスピーチを喋るよう笑顔で強要された。こうなることは予測してあったので、スピーチは事前に用意してあった。私は何の感慨もなく、スピーチを朗読した。
 無論誰も聞いていない。私がスピーチをしている間、皆それぞれに気の合う仲間と雑談を交わしていた。当然であろう。私は社内で緊密な人間関係を作らなかったし、作りたいとも全く思わなかった。

 私はBeFreeの社員達と、目標や価値観といったものを共有する事がどうしても出来なかった。私の目的は一にも二にも「金」であって、それ以外の何物でもなかったのだから当然と言えば当然だろう。
 BeFreeは決して大きな会社ではない。空前の大不況が製造業界に大打撃を与えている今、BeFreeは未曾有の窮地に立たされている。
 BeFreeは事実上A電機の子会社である。A電機から降りてくる仕事を消化しているだけの会社だ。営業部門は存在しているが、その活動と言えばA電機へのゴマすり以外には何もない。このような状況では「BeFreeはA電機の一部門」と言っても過言ではないだろう。

 だが、書類の上ではれっきとした別々の企業である。「A電機はBeFreeの一顧客に過ぎない」ということになっているのだ。それは大企業が生み出した、姑息な生き残りの知恵であった。いざとなればA電機はBeFreeを容赦なく切るだろう。大企業は一にも二にも自社を守ることを最優先する。それが会社組織というものが持つ非情な自己保存本能である。そこに「義理」や「情」といったものが入る余地などない。
 いずれBeFreeは存亡の危機に立たされるだろう。私の目の前で楽しそうに酒を飲んでいる彼らは、力を合わせてこの危機を乗り越えていかなければならない。そこには知恵と、勇気と、工夫と、チームワークと、社員たちの多大な自己犠牲を要するであろう。

 だが、私にはそんなことどうだっていい。BeFreeが潰れようが、同僚が路頭に迷おうが、私の心は微塵にも痛まない。私はBeFreeに張り付いた一匹の寄生虫に過ぎない。それは重々承知の上で、私は甘い汁を吸い続けてきた。

 だが、そろそろ潮時だろう。私は私の道を行く。
 さらば、BeFree。
 長い間金蔓として機能してくれて本当にありがとう。

 などという事を考えながら酒を呑んでいると、ふいにウンコがしたくなった。

「ちょっと失礼。」

 と言って私は席を立ち、トイレへと向かった。居酒屋は狭く、無駄に入り組んでおり、トイレはなかなか見つからなかった。私は女学生と思われる派手な化粧をしたアルバイトの店員からトイレの在り処を聞き出し、調理場の奥の方に存在しているトイレへと向かった。


 そのトイレは洋式便所だった。特になんのトラブルも無く、私はズボンを下ろし、便座に座り、排泄を始めた。
 排泄を妨害するような障害は何も無かった。実に平和なものである。Hello山下がいなくなった今、私の神経を逆なでするようなトラブルは最早起こりえない。
 何故かはわからないが、それを少し寂しく思った。

 排泄を終えた私は、これまでの習慣から、半ば反射的に例のラクガキを探した。

 (酔狂な話だ…)
 
 と自分を笑いながら、私の目は懐かしい文字を探した。
 勿論見つかりっこないことは重々承知の上だ。ただ、あのラクガキを探すという行為の懐かしさに酔いしれていた。


 だが、驚いたことに――――
 それは、大個室のドア中心付近に、あっさりと見つかった。


    「シーユー・アゲイン!!!   byHello山下」

 
 その文字が何故、そこに存在していたのか?理由はわからない。勿論私には全く身に覚えの無い話だ。この事に理路整然とした説明をつけることは出来ない。また、この謎を解明しようとも思わなかった。

 ただ、何故だかとても嬉しくなった。
 気付けば私は少しだけ、涙ぐんでいた。

                        (完)


それでは皆さん、良いお年をー♪   魔王源


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コメント (3)

K:

明けましておめでとうございます。それにしても、ウ○コ話で切なくなるとは思ってもいませんでした。最高!

まおうげん:

あけましておめでとうございます。
このような不潔な物語に最後まで
付き合って頂き、まことにありがとうございました!

切なくなって頂けましたかw
これ以上の喜びはありません!

Very nice site!

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2008年12月31日 18:55に投稿されたエントリーのページです。

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